設立の背景

なぜオリーブの家を設立したのか?

設立当時の2012年版犯罪白書によると、2011年の検挙者約30万5600人のうち、再犯者は約13万3700人、再犯率43.8%は過去20年で最も高くなっていました。仕事の有無は、犯罪の抑止に関係します。保護観察対象者の再犯率は、仕事があると7.4%ですが、無職だと36.3%に跳ね上がります。受刑者のうち約7割は無職と言われています。
再犯率の高まりに対する対策としては、刑務所を出た人たちが職と住居を持ち、安定した生活を送れるようにすることが必要です。しかし、出所者を支える更生保護施設は慢性的に不足していました。2011年に出所した約2万8000人のうち4割にあたる約1万2500人は帰る場所がありませんでしたが、全国に104ある施設の収容定員は約2300人にとどまっていました。
運よく更生保護施設に入れても、立ち直れる人ばかりではありません。仕事を得て一人暮らしを始めながら、やがて生活が乱れて職を失い、再び犯罪に手を染める人もいます。
このような状況の中で、自身が元受刑者という経験を持つ青木康正は、受刑生活の体験を通じて更生保護事業に第二の人生を捧げたいと願い続けています。
以下は、青木康正の救いの証しと、その中で語られた「オリーブの家」の構想です。

「ヤクザからの回心」

私は、18歳からヤクザの世界に身を置いてきました。10代の頃は、少年鑑別所に5回、少年院に2回、入りました。16歳から成人するまで、社会に居たのは、ほんの半年程でした。成人になってからも、3回刑務所に入りました。
47歳の時、ある事件で警察に逮捕されました。この事件では、自ら命を絶った者を含め5人もの人が世を去っています。裁判で私は15年の刑期を言い渡されました。受刑中のある日、同じ刑務所にいた組織の者が、突然背後から私に襲いかかってきたのです。私は後頭部をハンマーで5回殴られ、頭蓋骨陥没骨折と手の甲の骨折で、全治1か月の重傷です。九死に一生を得ました。刑務所内の病院に移され、私の人生はその中で劇的に変えられました。
病室に備えられてあったキリスト教の本の中に、「あなたは聖書を読みなさい!!」と書かれていました。何故だか分かりませんが、そのことばに大きな衝撃を受け、その文字が私の心を捉えて離しません。
私は早速、聖書を借りて創世記から読み始めました。詩篇にさしかかり、詩篇第23篇4節「たとい、死の陰の谷を歩くことがあっても、私はわざわいを恐れません。あなたが私とともにおられますから」という御言葉に出会ったとき、人生で初めて心に平安というものを感じました。自分のなした事のゆえに命を狙われ、毎日死と向き合う私が、聖書を読めば読むほど、神様に対する飢え渇きが更に更に増していきました。
そんなある日、その事件からなのでしょう。あと刑期は10年というときに突然、熊本刑務所に移送されました。この熊本刑務所は日本全国で最も多くの凶悪犯罪者が収容されている刑務所です。無期囚が130名程います。
しかし、主の摂理を本当に感謝します。この刑務所で教誨師の牧師先生に出会い、2005年9月、私は熊本刑務所始まって以来のキリスト教受洗者第1号になりました。その時の感動は、今でも忘れることができません。イエス様はこんな虫けらのような男を救われたのです。

2011年3月3日、私は15年の刑期を終え、釈放されました。その足で、教誨師の先生の教会に行きました。私は出所したら、山にこもってでも聖書の勉強をみっちりできる所があればと思っていましたので、相談したら、シンガポールに聖書学校があるということでした。「学びたい、もっと神様を知りたい」という願いが日増しに強くなりました。
主をほめたたえます。神様は私の前に道を開いてくださいました。シンガポールの聖書学校には世界各地から500名程の学生が集まります。私はそこで7か月間、通訳をつけてもらって学ぶことができ、多くの方々と良い交流を持つことができました。また、シンガポールでは元受刑者の更生施設が、国の援助もありとても充実しております。在学中に、この施設を数回見学することができました。この施設はなんと職員全員が元受刑者の人達でした。内側が変わった方ばかりでした。

私は、現在66歳です。しかし、私には夢があります。元受刑者が安全な環境で、社会に復帰するための、更生施設を立ち上げることです。また、元受刑者が再就職する場を作りたいと願っています。
日本の再犯率は約50%です。私も、過去、そのような者のひとりでした。なぜ、元受刑者が悪の道に戻ってしまうのか。それは思いが新たにされていないからです。と共に、帰る場所がないという日本の現状も大きな原因のひとつです。その観点からも、元受刑者のための受け皿を作りたいのです。
私が長い刑務所生活の中で、特にこの15年で感じたことは、“人は内側が変わらないと、何も変わらない”ということです。有期刑の者は、収監中に刑が増えるようなことをしなければ、誰であろうと満期日の次の日の朝、出所できます。しかし、熊本刑務所に130名いる無期刑の人たちは、仮釈放でないと出所できません。それ以外は、棺桶に入って裏門出所です。仮釈放のためには、刑務所側が「出所しても大丈夫」と判断してくれなくてはいけません。ならばと、受刑者は反省の意と態度で仮釈放を勝ち取ります。「勝ち取る」というのは、装い勝ち取るということです。これでは内側が変わっていないので、本質は変わらず、必ずと言ってよいほど、社会生活に戸惑いを覚えます。
私がこの目で見、体験した中で、本当に「反省し、変わった」と思える人は、100%に近く、内側が変えられた人です。
しかし、人間は弱いものです。特に受刑者は社会生活に疎い人ばかりです。社会の厳しい現実を学ぶことも不可欠です。オリーブの家に入居して、社会の生活に馴染みながら真の自立を目指します。
私は、常にこのような人達に寄り添いながら、オリーブの家でそのお手伝いを続けたいと思っています。

青木 康正